日本の住宅産業は、住宅着工戸数の減少、建材コストの上昇に加えて、職人の高齢化や人手不足といったさまざまな課題を抱えています。加えて、消費者からは施工品質やコストが見えづらいために、クレームが起こりやすいという問題もあります。
株式会社NEXT STAGEはこうした現状を打破するべく、住宅建築・施工管理における「品質の可視化」を実現するITサービスを生み出してきました。
その次なる挑戦は、既存住宅の領域における新サービスの立ち上げに加え、ユーザーの満足度をより高めるためのUIデザインの内製化。ゆめみはそのパートナーとして、UIデザイン制作と、デザイナーの育成を両軸でご支援しました。
「デザイン未経験」ながらも抜擢された、NEXT STAGE社一人目のデザイナーと共に推進した本プロジェクト。今回は、その歩みを支えたメンバーの声を座談会形式でお届けします。
株式会社NEXT STAGE
代表取締役社長 小村 直克 様
取締役(IT部 管掌) 畑 晋平 様
IT部 デザイナー 山田 大高 様
株式会社ゆめみ
プロダクトデザイナー 戸田 修輔
リードUIデザイナー 大平 明日香
UIデザイナー 佐藤 沙織
ーー本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは今回、新サービスの立ち上げを決定された背景をお伺いできますでしょうか。
小村様:住宅は多くの人にとって、一生に一度の高額な買い物です。ところが、職人さんの技術や現場の管理体制がお客様からは見えづらく、クレームが増えてしまう構造的な問題があります。
ーーそして同時に、UIデザインの内製化というチャレンジにも踏み切られたのですね。
畑様:私が入社した2020年から、NEXT STAGEでは内製開発のための組織を立ち上げてプロダクト開発を行ってきました。ただ、UIデザインについては社内に人材がおらず、外部の方に依頼をしていました。
ですが、「もっとこだわってUIを作りたい」という思いが非常に強くなってきたんですね。以前に別のプロダクトを作った際にも、利用者の体験や満足度をもっと高めることができたのではないかという後悔がありました。
そこで、今度こそはUIをしっかり作り込もうという方針を固め、UIデザインの内製化を決めました。とはいえ社内にデザイナーはいない状態だったので、内部の人間を育成しようということで山田に声をかけました。
山田様:私は2023年に新卒でNEXT STAGEに入社し、当初は経営戦略室に所属して社長の元でIR資料の作成やデータ分析などを行っていました。
ただ、建築の大学院で学んでいた頃からデザインには興味を持っていたんです。今回こうした機会をいただき、自分の心の中だけで思っていたことがようやく形にできている感覚があります。
小村様:我々のようなベンチャー企業が強くなっていくには、「社内の人材を抜擢すること」が不可欠です。
もともと、山田の仕事ぶりから上位概念への理解や、経営的な視点が素晴らしいと感じていました。1on1ミーティングで対話する中でデザインへの意欲が高かったこともあり、UIという新しい領域でも、大きく伸びるだろうという期待がありました。
私はこの産業に長年関わる中で、住宅の製造に対するお客様の期待と、実際に出来上がったものとのギャップを強く感じてきました。そこで、日本中の建築現場の実態をデータベース化し、ITと組み合わせることで製造プロセスを改善するソリューションを提案してきました。
そして今回は、私たちがこれまでに培ったノウハウを活かして、既存住宅に対する細やかな工事の実現を後押しするような新サービスを作ろうと考えました。
株式会社NEXT STAGE 代表取締役社長 小村 直克 様
住宅業界歴33年。ITとデータを掛け合わせた革新的アプローチによって「業界を変えたい」という強い思いを持つ
ーー本プロジェクトのパートナーとして、ゆめみを選んでいただいた決め手は何だったのでしょうか。
小村様:我々がIT領域での挑戦を始めたのは2013年頃で、まだ社員数も20名未満でしたが、実は当時からゆめみさんのことは知っていました。支援をお願いできたら夢のようだと思っていましたが、資金が潤沢にあるわけでもなく、実現は難しかったんです。
その後、畑さんが入社して開発部門の立ち上げを始めた中で、ゆめみさんの社長である片岡さんとの出会いが大きな刺激となりました。そこから歯車が見事にかみ合って、今回のご依頼となりました。振り返ると、このつながりは偶然ではなく、必然だったと感じています。
畑様:もともとゆめみさんは非常にユーザー思考で素敵な会社だなと思っていました。ですので、新しいプロダクトのUIデザインをどうしよう、となった時に、自然とご相談していましたね。
そして最初のミーティングで、戸田さんに我々が考えていることをお話しさせてもらったのですが、すぐに「これは一緒にできる気がする」と感じたんですよ。
株式会社NEXT STAGE 取締役(IT部 管掌) 畑 晋平 様
大手SIerやベンチャーでの経験を経てNEXT STAGEに参画。内製開発組織を立ち上げ、プロダクト開発の舵取りを担う
畑様:もちろん、ただ「フィーリングが合った」だけではありません。ゆめみさんは対外的な発信を積極的にされているので、予めどんな会社なのかをよく知ることもできていましたし、豊富な実績をお持ちだったことで、安心してお任せできると感じました。
ーーゆめみとしては、このプロジェクトが始まる際には、どういった心持ちでしたか?
株式会社ゆめみ プロダクトデザイナー 戸田 修輔
デザイナー歴22年。デザインをはじめ、「エンジニアがやらないこと」を幅広く担ってきたゆめみの一人目デザイナー
戸田:僕も同じように、最初から「一緒に仕事をしてみたいな」と感じていました。その一方で、住宅業界について学べば学ぶほど「奥が深いな…」という戸惑いもありましたね。
住宅業界は関わる人が非常に多く、また電話やFAXなどまだまだアナログな作業も多いといった難しさもあります。ですが僕個人としては、デザイナーとして「何を作るかわからない、絵になるものがわからない」ものが得意なので、その点ではワクワクしていましたね。
ーー今回は、具体的にはどのようにUIデザイン制作を進めていったのでしょうか。
大平:最初は、山田さんが社長との壁打ちを踏まえて作ってくださったラフスケッチをもとに、要件を洗い出すところから始めました。その後、アクティビティ図(※)や業務フローを整理した上で、大きな機能の画面から順に起こしていきました。
※ソフトウェア開発において、ビジネスプロセスやワークフローを表現するために利用される図のこと
プロジェクト開始直後、ゆめみが作成したムードボード(コンセプトやアイデアを視覚的に表現するもの)
大平:その後は、2週間に一度のペースで全体レビューを実施しながらすり合わせていきました。小村社長や畑様、現場を熟知するスタッフの方まで一堂に会してフィードバックをもらえたのでありがたかったですね。
株式会社ゆめみ UIデザイナー 大平 明日香
メーカーやデザインファーム勤務を経てゆめみにジョイン。コンセプト策定・ビジュアルデザイン・UI作成を担当
ーー山田さんはUIデザインは未経験だったそうですが、どうやってスキルを身につけていったのですか。
大平:今回はデザインツールとして「Figma」を使っていましたが、最初はFigma上に「砂場」と名付けた学習用のスペースを設け、操作に慣れてもらっていました。
実際に使っていたFigmaの一部
大平:山田さんは理解力と吸収力がとても高くて、1〜2週間で操作は完璧になったので驚きました。そこからは実際に画面や機能を作ってもらいつつ、週3回「もくもく会」を設定して、つまづいた時にはいつでも私たちに質問できるようにしていました。
山田様:Illustratorを使った経験があったので、Figmaの基本操作は馴染みやすかったです。最初はわからないことばかりでしたが、皆さんのおかげで短期間でスキルアップできました。
特に佐藤さんとは、社会人歴がほぼ同じだったこともあり、もくもく会では色々と質問させてもらいました。
株式会社NEXT STAGE IT部 UIデザイナー 山田 大高 様
新卒2年目。大学院で建築とデータ分析を学び、入社後は経営戦略室を経てIT部へ。社内初のUIデザイナーに抜擢
佐藤: 逆に、私は住宅業界に関する知識は持っていなかったので、UIデザインを制作する上では山田さんに具体的なユースケースなどを都度質問していました。
大平:二人のモクモク会では、お互いに相談しやすい空気感が出ていましたよね。
戸田: 実は、ゆめみとしても内製化支援をしながら人材育成に取り組んだのは今回が初めてでした。僕たちも手探りの部分もありましたが、最終的には、山田さんが一人で全体レビューでのプレゼンテーションを担当できるまでになりました。
山田様:レビュー会の30分前に戸田さんから「やってみる?」という声がけをもらったのですが、実は事前に予想して準備していました(笑)。
一同:(笑)
畑様:ゆめみの皆さんからは、こうした愛のある無茶振りを含め、山田にはフィードバックをたくさんいただきました。本人の成長にもつながったと思います。
ーー本プロジェクトではUIデザインとレビューを繰り返したということですが、レビュー会での社内の反応はいかがでしたか?
畑様:最初の全体レビュー会には、社長、営業責任者、建築士など、ひと通りの部署から8人ほど集まったのですが、いきなり完成度の高いUIが出てきて驚いたんです。みんなが「これはいける」と手応えを感じた瞬間でした。
佐藤: 実はゆめみとしては、当初は業界知識がない中で悩ましい点もたくさんありました。その中で、大平さんが何パターンも案を作ってくださったり、みんなで泥臭く取り組んできました。
株式会社ゆめみ UIデザイナー 佐藤 沙織
新卒2年目。複数アプリのUI制作を経験し、今回のプロジェクトではUIデザインの制作を主に担当
小村様: 最初から、戸田さんを中心に皆さんが自分事として取り組んでくださっている雰囲気を感じていました。ビジネスパートナーというよりは、「一緒に知恵を出そう」という素のスタンスでいてくださったので、これはうまくいくなと。これはなかなかないことです。
佐藤:メインユーザーの中にはご年配の方も多いので、スマホに使い慣れてない人でもわかりやすいUIになるよう何度も試行錯誤しました。特にフォントサイズの大きさ、色のコントラストなど、アクセシビリティに配慮したデザイン制作をしています。
畑様:他にも、現場で検査士が、撮影した写真にコメントを入れられる機能をご提案いただいたのですが、その際には「実装は大変かもしれませんが、これが良いと思います」と仰っていて。
敢えてそのように、エンジニアにとってはチャレンジングな提案をしてくださったことが、素晴らしいなと感じました。これは良いプロダクトになっていくのではないか、という匂いがした瞬間でしたね。
ーー現在はUIデザインについては完了し、NEXT STAGE様のエンジニアを中心に開発を進めているとお伺いしています。
大平:デザインデータを引き渡した後は、山田さんが中心となり、社内のエンジニアの皆さまと開発を進めています。私は引き続き「壁打ち支援」として、山田さんの疑問点の解消や、継続してスキルを学ぶためのサポートをさせていただいています。
直近では、実装に入るということでエンジニアさんとのコミュニケーションも発生しています。「ただ手を動かすデザイン」だったところから「プロジェクトをデザインする」フェーズに変わり始めているのですが、そこを山田さんが一人で推進されているのが本当にすごいです。
少しでもスムーズにプロジェクトが進むように、今後もご支援が続けられればと思います。
山田様:自分でも「フェーズが変わった」ことは本当に実感しています。何もかも初めてづくしですが、ゆめみさんから学んだUIデザインのプロセスやFigmaの使い方は社内でもかなり活用できています。
今後はデザイナーとしての成長はもちろんですが、私だけでなく、デザインチームを組織化していくのが目標です。リーダーシップを発揮して、NEXT STAGEのデザイン力をさらに高めたいと思っています。
ーー最後に、今回NEXT STAGE様がゆめみとご一緒した感想を伺えますか。
畑様:前回のプロダクトで感じていた「もっと良いUIを作れたはず」という悔しさが、今回のプロジェクトでかなり解消されました。さらに、山田がこのあとも継続してプロダクトを育てられる体制になったのは大きな成果だと思います。今後も新しいプロダクトや機能をどんどん生み出していきたいので、またぜひ、ゆめみさんには相談したいです。
小村様:山田に対して「本気で育てよう」という気概を感じました。普通、遠慮して指摘を濁すこともあると思うのに、愛あるフィードバックをしっかりくれるんです。そこが嬉しかったですね。受発注の関係で済ませるのではなく、真剣に一緒に考え合う風土を作れたことが良かったと思います。
住まいづくりの世界はアナログが強く、デジタルにしづらい部分も多いですが、お客様が安心して家を建て、リフォームができる仕組みをもっと世の中に広げたい。そこを私たちが引き続き牽引していくためにも、協力パートナーとしてともに走り続けたいですね。
ーー本日はありがとうございました。既存住宅の課題に対して、ITと建築の掛け合わせで挑戦を続ける、NEXT STAGE様の今後の展開がとても楽しみです。(了)