情報通信事業者としての、高品質で安定した通信インフラの提供に加え、昨今では身近なICT企業として、地域の課題解決や価値創造に取り組む東日本電信電話株式会社(NTT東日本)。
同社は、これまでシステム開発において国内有数の実績を残してきた一方で、開発における「デザイン」については、内製がなかなか進まない状態にあったといいます。
そこで、自分たちがデザインの知見やスキルを獲得することで、組織の新しい強みを作っていきたいという思いから、2023年よりゆめみとの「壁打ち」という形でディスカッションをスタート。自社の強みや、あるべき姿を整理した上で、5ヶ月に渡るUXUIスキル向上プログラムに取り組みました。
プログラム修了後は、ゆめみのサポートを受けながら、学んだスキルや知見を実際のアプリ開発で実践。今回は、NTT東日本様とゆめみが二人三脚で取り組んできたこのデザイン人材育成支援プロジェクトを、座談会形式でふりかえります。
東日本電信電話株式会社
デジタルデザイン部 システム開発推進部門 DX技術担当 担当課長 和田 正太郎 様
デジタルデザイン部 システム開発推進部門 DX技術担当 チーフ 小原 智 様
株式会社ゆめみ
シニア・サービスデザイナー 本村 章
リード・サービスデザイナー 村上 雄太郎
プロフェッショナル・サービスデザイナー 仲村 怜夏
上段中央から、時計まわりにNTT東日本 和田様・小原様 / ゆめみ 仲村・村上・本村
ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、ゆめみにお声がけをいただいた背景についてお聞かせいただけますか。
和田様:私の所属しているデジタルデザイン部は、NTT東日本におけるシステム開発の中核的な組織として非回線領域の事業拡大に取り組んでいます。
過去、デジタルデザイン部のシステム開発の中でもデザインについては、知見を持つパートナー企業に依頼してきました。しかし、パートナー企業をディレクションしようにも、専門的な知識も持った人間もおらず、受け身になってしまうことが課題でした。
そこで、デジタルデザイン部内にデザインチームを作り、先頭を切ってデザインを強みとすることで、組織全体としてのクライアントへの提供価値の向上につなげていきたいと考えたのです。そして、いずれはそのデザインのスキルや知識を会社全体へ広めていく存在になれば、組織の土台を底上げできると考えました。
和田様:こうした背景から、2023年は、デザインにおいて我々に必要なプロセスやスキルを定義し、基礎の基礎を作る年にする、という事業計画を定めました。
とはいえ、何の知識も持たない我々だけでは推進できないので、いわゆる「先生役」をお願いできないかと、別の案件でご一緒していたゆめみさんにお聞きしたところ、出てきてくださったのが本村さんです。
本村:はじめてお会いした時から、ゆめみのメンバー一同、和田さんの熱量には驚かされました。この様子ならば、私たちが持っているものをちゃんとぶつけて、協力し合いながら成果を作り上げていけそうだと感じました。
村上:私は壁打ちの途中から参加したのですが、その際にすでに和田さんは、ジェシー・ジェームズ・ギャレット氏が提唱した「UXデザインの5段階モデル」のような、デザインの理論を用いて会話されていました。デザインについて学んでいなければ出会うことのない理論なので、本格的なレクチャーを始める前にすでにデザインのナレッジを深めている姿に本気度を感じましたね。
本村:とはいえ、私たちがいきなりカリキュラムを提案しても、それがNTT東日本さんが必要としているものだとは限りません。最終的にどんなスキルを得たいのか、あるべき姿を議論した上でカリキュラムの構造を練るためにも、まずは壁打ちからスタートすることを提案しました。
和田様:最初は、壁打ちよりシンプルにサービスを提供していただくほうが良いのかな、とも考えました。ですが実際にお話をしていく中で、「何をすべきか」から一緒に考えてくださるほうが、頼りがいがあるなと。
実は、他の会社さんにも同様の問い合わせをしていたのですが、基本的には「要件をくださればそれに応えます」という返答でした。今の私たちの状況では、一緒に伴走してくださるゆめみさんが合っていると感じましたね。
ーー2023年2月、3月に実際の壁打ちを実施しましたが、具体的にはどのようなお話をされたのですか?
和田様:そもそも「デザイン」だったり「UXUI」というと、ユーザーインタビューだったり、ペルソナだったりという上流工程の要素も思い浮かびますよね。ですが我々はあくまでも、「システム開発の中のデザイン」にフォーカスすることを最初に決めました。
背景としては、すでに強みとしているシステム開発の領域で成果が得られるようにスコーピングをした上で、それをガッチリ固めたいという思いがありました。
本村:システム開発におけるデザインといっても、リサーチから画面の実装、ビジュアルデザインなど、さまざまな領域があります。その中でもどこが一番必要なのかを特定するために、まずはしっかりと時間を使いました。
そして、壁打ちを進める中でキーワードとして出てきたのが、「プロトタイピング力を高める」ことです。
これまでも、仕様書を作成したり、画面のイメージをPowerPointで作成したりする中で、課題を感じたことがあったとのこと。その課題に対して、私たちが持っているデザインの知識をお伝えすることで、大きくスキルアップができるのではと考えました。
和田様:そうですね。ゆめみさんとお話していく中で、まずは誰が見てもわかりやすいように情報を伝えるスキルを身につける必要があると感じました。
その土台として、サービスのプロトタイプを自分たちで作って評価するプロセスを回していくことは、これまでの経験からも取り組むイメージがしっかり湧いたんですね。できあがりに近いものを自分たちで作れるようになることで、ユーザーに提供できる価値も高められそうだと考えました。
加えて、今後も外部のデザイン会社さんと協業していく上で、しっかりと対等に議論できるような知見を身に着けたいという狙いも出てきました。
これまでは、デザインの見積もりをいただいても、知識がなさすぎてこれが高いのか安いのかも判断ができなくて。特に情報構造の設計については、デザイン会社さんがおっしゃることも作業の内容も理解した上で、見積もりについて議論できるようになりたいと考えました。
ーー壁打ちを経て、2023年5月から9月には実際のUXUIスキル向上プログラムを実施したそうですが、どなたがメインで参加されたのですか?
和田様:いずれは部署のメンバー全員にデザインの知識を持ってもらいたいものの、まずはスモールスタートすることに決めました。このプログラムを開始する前に、部内でデザインを本格的に学びたい人を募集して、有志4名がメインで参加することになりました。
小原様:私もその中の1名ですが、これまではシステム開発のPMやPMOを担当してきました。開発全体をマネジメントする中でデザインには興味があり、迷わず手を挙げました。
ーー具体的には、どのような内容を学んでいったのでしょうか。
本村:はじめに、システム開発と親和性の高い方法論として、ゆめみでも活用している「人間中心設計」の全体像をお伝えする座学を3回実施しました。こちらは、部署のメンバー全員を対象としたもので、4〜50名が参加されましたね
その後、デザインツールとしての「Figma」の使い方や、情報構造や設計などのUI、遷移図やワイヤーフレームの作り方など、具体的なスキルを実習を含めて学んでいきました。NTT東日本様のニーズに合わせて、「見た目のデザイン」を作るより、情報設計の学習に重点を置くように調整しました。
実際に行ったカリキュラムの全体像
仲村:私はFigmaの使い方などのカリキュラムを担当させていただきましたが、皆さんに「楽しい」と何度も言っていただいて、私自身もとても楽しく進めることができました。
和田様:仲村さんから教わったFigmaの使い方は、誰よりもわかりやすかったです!(笑)
仲村:そう言っていただけると嬉しいです。私自身も本村さん、村上さんに比べると、まだまだデザイン初学者。自分に何ができるのか悩ましいところでもありましたが、より皆さんに近い目線でお教えできたのではと思います。
小原様:わからないところがあってもすぐに聞ける環境だったので、どんどん吸収できましたね。
当時、担当していた他の案件で苦労していたこともあり、このプロジェクトは本当に癒やしでした(笑)。自ら手を動かして、これまで知らなかったことを知り、新しいものを作り出すのはとても楽しかったです。
ーー皆さんの信頼関係がとても伝わってきます。カリキュラムの中で、特に印象に残っていることはありますか?
和田様:「UIトレース」ですね。既存のアプリをトレースして作ってみるというトレーニングでしたが、自分で手を動かして情報設計やUIを試行錯誤するのがとても楽しかったです。
実際のワークショップの様子
小原様:触れるものすべてが、目からうろこが落ちるような発見ばかりでしたが、特にOOUI(オブジェクト指向UI)を学んだ時には感激しましたね。プログラミングでも、オブジェクト指向という考え方があるので、納得感がありました。
和田様:たしかにそうですね。私自身、新卒からインフラエンジニアだったこともあり、フロントエンドのオブジェクト指向についてはずっとピンときていなかったんです。このプロジェクトを通じて、自分でも腹落ちできた気がします。
本村:OOUIでは、いわゆる機能要件と呼ばれるものを名詞と動詞で整理した上で、必要な情報を「一覧」と「詳細」の2つの画面タイプに分けて捉える考え方です。この考え方を知っていると、UIの設計はとてもシンプルになります。
ーー他にもマインド面での変化はありましたか?
小原様:UIトレースなど、自分でも手を動かしてみることで、デザイナーが「これをどう考えて作ったのか」想像するようになりました。
和田様:共にプログラムを学んだ女性社員も、元々ものづくりが好きな指向性の持ち主でしたが、このプロジェクトは本当に合っていたようです。彼女の能力を発揮する場にできたと感じています。
小原様:彼女の前向きな姿勢には、私も刺激されましたね。本質的な問題はどこにあるのかを考えて取り組んでいた姿を見て、刺激されました。仲村さんとも何度もやりとりしていましたよね。
仲村:Figmaのコメント機能をつかって、非同期でもやりとりさせていただきました。皆さんのモチベーションの高さに、私も励まされました。
Figmaのコメント機能を用いた実際のやりとり
本村:デジタルプロダクトにおけるデザインの理論は難解で、経験のあるデザイナーでも理解できないことがあるんです。NTT東日本の皆さんは、これまでのシステム開発やPMなどのスキルを照らし合わせながら、柔軟に学んでいた印象でした。
村上:これまでも同様な勉強会は何度か開催してきたのですが、お世辞なしで、すごく理解が速かったですね。こんなにスピード感を持って成長できるのか、と非常に驚きました!
ーーその後、2023年10月からは、実際の開発案件で学んだスキルを活かされたとお聞きしています。
和田様:カリキュラムを通じて学んだ後は、そのスキルを実践したいと考えていました。ベストなタイミングでBtoCのスマートフォンアプリの開発案件に携わることになり、そちらを活用した形です。
具体的には、小原が全体のPM、私がデザインチームのリーダーを担当。実際に手を動かすデザインは他のチームメンバーが担当しました。ゆめみさんには、私たちに伴走していただく形で支援をいただきました。
本村:立ち上がりの1ヶ月程度は、私たちがリードして手を動かしましたが、その後はほとんど和田さんと小原さんがリード。私たちはもっぱらサポートに回りました。
和田様:私たち自身でクライアント側のデザイナーさんとやりとりし、その内容を別途ゆめみさんと壁打ちする機会を設けながら、ブラッシュアップを進めました。
自分たちにデザインの基礎ができたからこそ、クライアントにも「こんな考え方で作りました」「ここを変えると、こんなデメリットがあります」と根拠をもって説明でき、より大きな価値を提供できたと思います。
とはいえ、私たちの知識はまだまだ付け焼き刃。クライアント側のデザイナーさんのご指摘もうまく取り込みながら、納得感のあるデザインを作っていきました。
小原様:和田さんが実際に交渉しているのを見て、さらに勉強になりました。自分たちがデザインを学んだからこそ、根拠を持って交渉できます。デザインを身に付けることは、大きな強みになると実感しました。
ーーこのフェーズにおけるゆめみのサポートはいかがでしたか?
和田様:いずれ自走できるようになるためには、ゆめみさん頼みでなんでも聞いていては力になりません。まずは自分たちでしっかり考えて、意見を持った状態でゆめみさんに相談するようにしました。自分たちで試行錯誤できたのは、バックにゆめみさんがいてくれる安心感があったからだと思います。
村上:後半には、「3案作ってきて、それぞれこんな特徴があるのですが、どうですか」など、実践を行った上で、それをベースに意見を求めてくださってましたね。私も徐々に、デザイナー同士で一緒に働いているような感覚になりました。
本村:飲み込みが早くて、私たちサポート側としては本当に楽でした(笑)。しっかり考えた上で相談していただけるので、コミュニケーションもしやすかったですね。僕たちの教え方というよりは、皆さんがモチベーション高く取り組んでいただいたおかげだと思います。
和田様:実践フェーズのタイミングもよかったですね。どうしても研修のみだと、甘えが出てしまいます。実際の案件で取り組めたことで、学んだことの理解が深まりました。
ーーこれまでのお取り組み、全体をふりかえってみて、今はどのようなお気持ちでしょうか。
和田様:実は、以前は社内に「デザインはセンスだから、わざわざ学んでも意味がないのでは」という意見があったんです。このプログラムを開始した後も、一度社内で軽く勉強会をしたのですが、短い時間でその勘違いを完全に晴らすことはできませんでした。
ただ、私自身は学んでいく中で、この画面で何を伝えたいのか、ユーザーに何をしてほしいのか、理論的に考えられるようになったんですね。「センス」と片付けてしまうのは、理解のコストを下げているだけ。デザインを学ぶメリットは十分すぎるほどあります。社内に知見を広めていかねばならないと決意が強くなりました。
小原様:私も受講する前は、デザインにはセンスが必ず必要なのかなと思っていた人間でした。しかし実際に学んでみると、ロジカルに根拠を持って語れるものなのだとわかり、新しい発見でしたね。
システム開発を行う上で、シンプルに考えることは非常に大切です。デザインを学ばないと、無駄なモノを作ってしまう。デザインの重要性を実感しました。
ーー最後に、今後の展望について教えてください。
和田様:目標であるデザインを強みとする部になるために、ゆめみさんから学んだメンバー以外も、デザインへの理解を深める必要があります。デザイン知識のベースができると、提供価値の向上にもつながるはずです。
直近の課題は、スキルの標準化ですね。
本村:和田さんたちのように、プロフェッショナルと遜色ないレベルで使いこなせるメンバーも必要ですが、ディレクションする上ではそのレベルまで達する必要はないかもしれません。どこまでの知識を持つといいか、検討する必要がありますね。
和田様:デザイナーを採用するのは現実的ではありませんし、どのようなスキルを身に付ければ、目指す価値を提供できるか、精査していかねばなりません。やるべきことはたくさんありますね。
また、「デザインはセンス」と考えている社員はまだまだ多いのが実情です。草の根活動として、デザインの知見を広めていきたいと思います。
まずは…ゆめみさんからの宿題の提出がいつも遅れてしまうので、そこをちゃんとすることからですかね(笑)。これからもよろしくお願いします!
ーーありがとうございました!これからもよろしくお願いします!(了)