WORKS

小野薬品工業|ボトムアップで新規事業の開発を目指す、社内ビジネスコンテストを支援。ご担当者様・ゆめみ担当者による特別座談会

「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」を企業理念とし、1717年(享保2年)の創業から300年以上にわたって患者さんに薬をお届けしてきた小野薬品工業(以下、小野薬品)。

新薬開発の成功率は「2万〜3万分の1」ともいわれるほどの狭き門。その中でも革新的な医薬品を提供し続けるため、同社ではオープンイノベーションの活発化やデジタルを核とした異業種連携をすすめてきました。

加えて2021年には、およそ3,500人の従業員が日々現場で感じている課題を事業開発に活かすため、イノベーション人財育成プログラム「Ono Innovation Platform(OIP)」を立ち上げ。その一環として、社員の自発的な挑戦の場である社内ビジネスコンテスト「HOPE」を開始しました。

HOPEの第1回、第2回にはそれぞれ80名以上が参加し、新しい事業の種が生まれた一方で、顧客の課題やペインの深掘りについては、まだまだ足りない状態だったといいます。

そこで2023年度のHOPEでは、ゆめみが小野薬品の事務局の皆さんとともに運営に参加。人間中心設計の考え方を取り入れたワークショップや、リサーチツールの使い方講座を提供するだけではなく、メンターとして起案者1人ひとりに伴走し、共に事業アイデアを磨き込みました。

結果的に、2件のアイデアが採択され、事業化へと進むことに。今回はその歩みを、座談会形式でふりかえります。

クライアント

小野薬品工業株式会社

 

座談会参加メンバー

小野薬品工業株式会社
経営戦略本部 BX推進部 OIP課 課長 若松 大将 様
経営戦略本部 BX推進部 OIP課 渡邊 真理 様
経営戦略本部 BX推進部 OIP課 木下 翔太 様

株式会社ゆめみ
シニア・サービスデザイナー 本村 章
シニア・サービスデザイナー 栄前田 勝太郎
サブリード・サービスデザイナー 仲村 怜夏

上段左から、小野薬品 若松様、木下様、/ ゆめみ 本村、栄前田
下段左から、小野薬品 渡邊様/ ゆめみ 仲村

現場の課題をボトムアップで集め、事業化を目指す「HOPE」


ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは皆さまが所属していらっしゃる「BX推進部 OIP課」について教えてください。

若松様:「BX」は「Business Transformation」の略で、ひとことで言うと人と新しい事業をつくる部署です。私達は「OIP(Ono Innovation Platform)」というイノベーション人財育成や挑戦風土醸成を目的としたプラットフォームを立ち上げ、その中で社員が学習できる機会を設けるほか、ベンチャー企業への出向を経験してもらうプログラムなどを運営する活動を担うチームです。

その背景には、人だけを育てるのではなく、組織文化をつくっていきたいという思いがあります。ですので、単にプログラムを提供するだけではなく、参加者の「その後の活躍」をオウンドメディアなどを通じて可視化するなど、周囲にも「自分もやってみよう」と伝播していくような取り組みにも力を入れ始めています。

ーーその活動のひとつとしてHOPEがあるのですね。ではHOPEについても改めてお聞かせいただけますか。

若松様:我々は「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念を掲げています。HOPEは、そこに合致する新規事業のテーマを社内に幅広く募集しているビジネスコンテストです。

「コンテスト」と言いましたが、社員には身構えずに参加してほしいと考えています。自分が日々感じている課題を現業を超えて解決したい、そんな思いを持つ社員にどんどん参加してほしいと思っています。

HOPEは3段階のフェーズに分かれていて、起案者は一次選考・中間ピッチ・最終審査会と進みながら、持ってきた課題を解決するアイデアの仮説検証を繰り返します。社員が現業以外で新しいことにチャレンジするという意味では、社内でも初めての取り組みです。

渡邊様:私はHOPEのプログラム設計や起案者への伴走体制の構築を、事務局として行っています。HOPEは2021年4月に立ち上げたのですが、その背景にあったのは、新規事業のような新しいことに挑戦する社内文化を作っていきたいという思いです。

弊社の社員は3,500人ほどおりますが、それぞれが医療現場や研究の現場で気づいた課題や原体験を持っているはずです。
それを新規事業の種として、ボトムアップで何かできないか? ということでHOPEが始まりました。

若松様:そもそも、医薬品は世の中に出るまでに15年くらいかかる上に、その成功率はわずか数%です。以前は「新規事業」自体が会社の成長戦略の中にありませんでした。

ただ、私は14年ほど研究員をした後にオープンイノベーションに関わるなかで、新規事業を創出する仕組みの必要性を強く感じていました。医薬品だけにとどまらず、新しい事業やサービスによっても患者さんに貢献できることは必ずあるはずだと。

そうした背景から、私自身も2021年度の最初のHOPEでは起案者としてプログラムに参加したんです。実はその前年には、新規事業を学ぶために社会人大学院に入学届を出していたので、もう1年早くHOPEができていたらもっと嬉しかったです(笑)。

より顧客の課題に迫る事業開発を目指し、ゆめみをパートナーに


ーーHOPEは、初年度である2021年度から80名以上の方がエントリーされたとのこと。ここまで3年で累計300名以上が参加されて、8件の新規事業案が採択されたんですね。

渡邊様:社内のリアクションは想像以上でした。他社さんのコンテストもリサーチした結果、参加者は50名くらいかなと思っていたのですが、たくさんの社員が応募してくれました。

ーーそんな中、ゆめみにお声がけいただいた背景としてはどのようなものだったのですか。

渡邊様:1年目2年目をふりかえると、新規事業の事業化という観点ではしっかり質の高いアウトプットができていました。一方で、その種になる「課題」の部分、顧客起点で事業づくりとしてはまだまだ足りていなかったなと。

課題の背景の深掘りや、ペインの具体化、顧客行動の分析といった部分でもっと起案者の支援ができると思っていたので、それをサポートしていただけるところを探していました

もともとゆめみさんのことはデザイン関連の講演で知ったのですが、ナレッジや専門性を互いにシェアする組織であることが良いなと思っていたんです。また、本村さんの「デザイン・イネーブルメント」に関する記事も読み、デザインをデザイナーだけに閉じない活動をされている印象でした。

加えて、やはりボトムアップで新規事業を作っていくにあたり、参加した社員がしっかりスキルを学んで現業に持ち帰れる仕組みにしなければ、HOPE自体が先細っていくのではないかという不安もあったんです。

そういった意味でも、デザイン人材育成支援のサービスを展開されているゆめみさんであればお手伝いいただけるのではないかと思い、真っ先にお声がけをしました。

本村:渡邊さんがおっしゃった「新しいものを顧客目線でつくっていく」ことはまさにゆめみの得意領域なので、ぜひご一緒させてくださいとお伝えしました。

実際にご支援内容を設計するにあたっては、ゆめみのデザインのグループの中でも共通言語である人間中心設計をベースとして、学習内容が体系化されるように組み立てていきました。

「誰も脱落させない」忙しい起案者へ寄り添う伴走体制


ーーHOPEは3段階のフェーズに分かれているということで、ここからは各フェーズごとに私たちの取り組みをふりかえっていければと思います。まずフェーズ1ではどんな活動を行いましたか。

本村:フェーズ1は参加している起案者さんの数が最も多く、過去にHOPEに参加された方も、そうでない方もいらっしゃるので経験に差があります。

そこで、経験をお持ちの方に関しては最初から個別のメンタリングを提供しつつ、初めて参加された方に向けては「デザインリサーチセミナー」というワークショップを行い、「顧客の課題をどう掴むのか」についてベースのインプットを提供させていただきました。

▼実際のスケジュール

私たちも驚いたのですが、外出先の駐車場に停車した営業車の中から参加してくださっている方もいるくらい、本当に皆さんモチベーションが高かったですね。

渡邊様:1年目2年目の大きな課題として、最初に思いついた事業アイデアから課題や解決策の幅が広がっていかない、という点がありました。そのため、カスタマージャーニーマップやステークホルダーマップという手段を学んでいただくことで、そこを支援したいと考えていて。

実際に、参加した社員からは現業に戻ってからもここで学んだフレームワークを活用したという声をもらっているのでとても良かったなと。また今回、ワークショップはオンラインで実施したのですが、ゆめみさんは本当に盛り上げ上手で!研修という感じは全くなく、それぞれが楽しみながらしっかり参加できる形になっていたと思います。

▼ワークショップで使われた資料

仲村:オンラインインタビューツールやオンラインホワイドボードツールといった、課題の深掘りに役立つツールの使い方もセミナーとして提供させていただきました。初めての方にはなかなか大変かなと思ったのですが、皆さん自主的に触ってみてくださったり、事務局の方が手厚くサポートをしてくださったりしたのでありがたかったです。

渡邊様:現業に持ち込めるハード面のスキルを学ぶ機会も作ってくださったことは、多くの起案者にとって良い影響があったと思っています。

木下様:私はHOPE2023では、事務局のサポートをしつつ、起案者のサポーターとしてバディ的な役割を務めました。その目線でいうと、あれだけのインプットを事務局だけで提供するのは無理だったなと思います。

ツールの使い方にしても、そんなものに触れたことのない世代の方々もたくさんいましたから。現業で忙しい社員も多かったですし、そういった点を踏まえてコンパクトに、かつ効率的に学ぶ時間を作っていただけたのはすごくありがたいなと感じました。

ーー事業開発に役立つインプットを行った上で、その後はどのように進めていったのですか。

栄前田:フェーズ1の後半は、メンター1人に対して3〜4人の起案者の方という形で、グループ型のメンタリングを行いました。1時間の枠の中で、それぞれがその1週間でやってきたこと、困っていることなどを1on1形式で話し、その様子を相互に見るというものです。

個別のメンタリングと比べて1人あたりでは長い時間をかけられませんが、グループで実施したことで意外と起案者さん同士が仲良くなって、繋がりができるというメリットがありましたね。他の起案者さんがどんな風にプロセスを踏んでいるのかも見られるので、今後はそこをもう少し押してあげるとより良い場になりそうです。

ーー全体として非常に手厚いプログラムという印象ですが、皆さんお忙しいなか、参加が難しい方などもいたのでは。

若松様:事務局側としては、フェーズ1で極力脱落させないようにしようとあらかじめ話していて。起案者のリストを見ながら、担当を割り振って個別に伴走していました。グループメンタリングを実施しつつ、裏では1対1で声をかけていましたね。

本村:プログラム全体を通して、事務局の皆さんの運営力、サポート力、先回り力が本当にすごかったです。私たちももちろんご支援させていただきましたが、「正直手伝うことあるかな」と思ってしまったほどです(笑)。

起案者をサポートするチーム体制を構築。プロトタイプ制作も


ーーフェーズ1はインプットが多めの印象ですが、フェーズ2以降はどう進んでいくのですか。

本村:最初の中間ピッチが終わると、参加者が一気に10名に絞られます。評価の軸も変わり、顧客の課題だけではなく、事業そのものの解決策としての妥当性、市場性も判断されることになります。

このフェーズでは、ゆめみ側から5名のメンターを出し、それぞれが起案者さん2名ずつをサポートする体制をつくりました。加えて、外部から事業アドバイザーとして事業開発などに関わる方をそれぞれ招聘し、新しいチーム構成でフェーズ2をスタートしました。

栄前田:メンター陣はフェーズ2が「初めまして」でしたので、最初はチームビルディングが肝でしたね。起案者の方、外部アドバイザー、メンターでどういう関係性を作って役割を分担するか。私がメンターを務めたチームでは、まずはみんなで飲みにいくことからスタートしました(笑)。

木下様:チームごとに、関係性もあり方もさまざまだったのかなと思います。私がサポーターを務めたチームでは、起案者が割と経験豊かな人で、やりたいことも明確、リーダーシップもあったので、中心となって引っ張ってくれましたね。

ーー10チーム、それぞれ在り方が違っていたのですね。

渡邉様:そうですね。それぞれ取り組んでいることも違ったので、ログをしっかり残していきたいと思っていました。実はゆめみさんが公開されているNotionを拝見して、ドキュメント文化がしっかりあるのだろうなと思ったこともお願いした決め手のひとつでした。

実際にフェーズ2以降は、メンターさんのサポートのもとで皆さん議事録やバックログをチームごとにしっかり残してくださいました。それを他のチームが見ることもできましたし、ナレッジの蓄積や共有がしっかりできて嬉しかったです。

本村:加えて私たちがご提案したのが、プロトタイプをするデザイナーの導入です。起案者の方のアイデアが固まり始めた段階で、それをより深堀りし、ターゲット顧客に受け入れられるものなのかを検証するために具現化するという試みです。

その形もチームごとにさまざまでしたが、私がメンターを務めたチームではサービスの紹介LP(ランディングページ)を作りました。

仲村:顧客であるお医者さんが使う、Webの管理画面を作ったケースもありました。実際に形に起こしたことで、「こういう情報を提供したいから、こことここを連携しないといけないよね」といった形で議論の具体度がすごく上がりましたね。

渡邊様:これまでも、顧客に早く具体を見せることはもちろん推奨されていましたが、手書きで何かを書くようなレベルでした。起案者も現業を行いながらではなかなか時間も作れなかったので、今回、プロのデザイナーさんに一緒に作っていただけたのは良かった点ですね。

HOPEを通じ起案者が大きく成長。人の変化が新しい文化を作っていく


ーーチームごとに課題とその解決策を磨き上げ、いよいよフェーズ3です。

若松様:フェーズ3では、候補者が半分の5名に絞られました。彼らは、最終的には大きな会議室で、当社の社長と副社長、外部からお呼びした審査員2名の4名に対して1人ずつピッチを行います。その様子は、全社に向けてライブ配信もされています。そのピッチを目指し、各チームで引き続き取り組んでいきました。

栄前田:すでに課題も、その解決策も解像度が高まっている状態なので、単にLPを作るなどではなく、より具体的な検証を行いました。私がいたチームでは、提供したいと考えているサービスを実際の顧客にプロトタイプで展開するなど、実証実験のような動きを行いました。

渡邊様:具体のサービスを顧客にぶつけていくことで、足りないところ、サポートが必要なところ、つまずくところなどが見えてきましたね。ここまでやったのは2023年度が初めてでした。

ーーここまで皆さんしっかりと伴走して来られて、最終審査会はドキドキですね。

仲村:フェーズ2、3は、私たちも事務局の皆さんと毎週定例をさせていただき、その際に各メンターが「やったこと」「Good」「Next」を共有していたんです。

その時に事務局の皆さんは、根を詰めすぎている方や進捗が遅れてる方がいないか、トラブルの可能性はないか、といったことを毎週ていねいにキャッチアップされていて。本当に「誰かを勝たせる」のではなくて、全員がちゃんと成果を残せるようにサポートされていたのが印象的でした。

最終審査会は、私は現地には行けなかったのですが、ゆめみメンバーと一緒に生配信を見ながら応援していました。

若松様:運営としてここまで一緒にやってきた5名が発表するということで、思い入れもありましたし、5名とも通過して欲しいと思いました。結果的に採択されたのは2名でしたが、その後も継続して支援している人や、次のチャンスにというお話をしている人もいます。

木下様:HOPEを経験したこの期間が、すごく良い時間だったという声がありましたね。採択されなかった人の中にも、逆に「来年もやってやるぜ」というくらいやる気で出た人もいて、すごく良かったなと。

栄前田:私も最終審査会は感無量でした。ずっと一緒に活動してきた方の、HOPEの期間を通じた成長が本当に凄まじくて。当初は個別メンタリングでいつも頭を抱えていたような方も、徐々に自分の言葉で話せるようになり、最終的には採択されるところまで行った。すごいなと。

チームでは、「これは採択されなかったら勝手に事業化しましょう!」なんて話していたんですよ(笑)。

ーー素晴らしいですね。HOPEの参加者に限らず、会社への影響という意味ではいかがですか?

若松様:全社レベルではまだまだですが、今は過去の参加者にインタビューをして、経験や学びがこういう風に現業に活きています、という声を拾えてきています。経営層にもHOPEというプログラムを通して人が育っていることを伝えられているので、継続して頑張って欲しい、もっと広げて欲しいという声をもらっています。

やはり、重要なのはコンテストであることではなく、人を成長させる仕組みであることなのかなと。人が変われば、その人が周囲に影響を与えて、組織も変わっていく。そうして、新しい文化を作っていくのがHOPEなんだ、と改めて実感できた年になりましたね。

ーー皆さま、本日はありがとうございました。(了)

<本プロジェクトに参加したゆめみメンバー>
本村 章、栄前田 勝太郎、野々山 正章、吉田 理穂、ウメムラ タカシ、村上 雄太郎、仲村 怜夏、荻野 弥生、岩崎 桃子、小林 明花、佐藤 沙織

Recommend 関連情報